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【voice】第四回オンラインレスリング(柴田寛 / 木村元彦):ジュニアアスリートの発育発達を科学する

2020年5月23日(土)に開催された第四回オンラインレスリングの音声を収録しています。

⬇️音声を聴く(59:57)
https://note.com/mamo_wrestling/n/nc173c4380d3f

第四回の講義は『ジュニアアスリートの発育発達を科学する』というテーマで、研究と実践を繰り返されている2人の先生を招いて行われました。第四回は過去最高人数の60名に参加いただきました。やはり、直接的に興味のある内容だったのではと思います。

開催2日前の事前打合せの際に感じたことは、『レスリングを愛し、価値を知っていて、だからこそ大衆化したい』という思いをお二人共通して持たれていることです。

したがって、今回の講義は目的と戦略に分けて考えた方がわかりやすいなと。

目的:レスリングを大衆化させる
戦略:先生方それぞれ取り組み

この戦略部分が今回の講義のテーマである「発育発達の研究、指導の実践」ということになります。この目線を持って聴いていただけると非常に理解しやすいと思います!

オンラインレスリング初、ジュニア指導者登場!講師紹介

第四回の講師には、FIVE☆STAR監督 柴田寛さん、チームバイソンズ監督 木村元彦さんの2名に特別講師をご担当いただきました。

FIVE☆STAR監督:柴田寛

略歴
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出身:秋田県
高校:秋田商業高校
大学:東京農業大学
現在:
・周南市役所勤務
・FIVE☆STAR監督
・徳山大学レスリング部コーチ
特記:全日本選手権史上最多22回出場
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注目すべきは全日本選手権史上最多出場記録を持っているということ。まさに鉄人です。お話の中にも登場しますが、勝利至上主義だけではなく長くレスリングを続けることも大切ということを実践を持って示されています。

チームバイソンズ監督:木村元彦

略歴
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出身:岐阜県
高校:岐阜工業高校
大学:専修大学
現在:
・チームバイソンズ代表
・専修大学レスリング部コーチ兼監督代行
・筑波大学大学院人間総合科学研究科
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ジュニアチームの監督を務めながら、筑波大学大学院でジュニアレスラーについての研究を進めている木村先生。経験だけでなくデータをもって指導にあたられている方はなかなか珍しいです。本編でも大変勉強になるお話をしていただいています。

本編のハイライト

ジュニア期の発育発達について。各年代で適切なトレーニングは?

半田(司会):
現在の木村先生の研究はどのようなものなのでしょうか?

木村:
レスリング選手の運動有能感に関する研究をしています。2018年に発表したものは、心とカラダに関する研究です。レスリングをしている子どもたちにどのような発育発達特性があるかを横断的に分析した研究です。今取り組んでいるのは、心の方で、学校体育に対する運動有能感をアンケートという手法でデータを集めて分析をしています。

まず、カラダの方について。レスリングの動きがバランス、敏捷性やバネ、前に出る瞬発力に関係していることがわかっています。それから小学校3年生(9歳)をさかいに男女の性差が見られます。女子は9歳前後、男子は12歳前後で成長期を迎えます。成長期前はバランスや敏捷性といった部分が発達するのでそういった部分を伸ばす運動を多く取り入れ、成長期あとは持久力や筋力といった部分が著しく発達するので、徐々に取り入れていくといいと思います。しかし、レスリングの場合だとみんなで練習するので個々人が今いったようなことを頭に入れて練習することが非常に大事になる思います。

柴田:
一言に年齢といっても暦年齢と生物学年齢とあって、同じ学年であったとしても成長速度は個々人で変わってくるので、指導者や保護者が木村先生が言われたことをよく理解しておくことが非常に大事だと思いますね。成長速度に合っていないトレーニングは怪我に繋がります。

木村:
怪我でいうと、ちょうど成長期を迎えていた中学校2年生の時(身長が1年間で10センチ伸びていた時期)に、10キロに及ぶ減量をしたことで左膝の靭帯を傷めて初めて松葉杖をつくことになりました。その怪我を今でも引きずっています。。翌年減量せずに望んだ全国中学大会の方がよっぽどいい成績を残すことができましたね。成長期に膝が痛くなるオスグッド病ってあるじゃないですか。骨と筋肉だと骨の成長速度の方が早いのに、筋力トレーニングをしすぎると筋肉が固まってしまい骨の成長を抑制するために起こってしまう痛みなんです。トレーニングをすることは一概に悪いこととはいいませんが、トレーニングあとは入念にその部分をほぐしてあげることを忘れないでください。

柴田:
骨が伸びて筋肉が成長するという観点について、いつ成長が起こっているかというと寝ている時なんです。今日はジュニア選手たくさん見てくださっていますが、みんなちゃんと寝ていますか??私の出身の秋田県は中学生の身長体重が全国で一番なんですよ。理由は早く寝るからです(笑)。秋田はやることがなくてみんな早く寝るんですよ。冗談みたいな話ですが、早く寝ることは成長期のタイミングには非常に重要なポイントです。それからバランスのいい食事も大切です。当たり前のことですが、睡眠と食事はおろそかにしないでください。

半田:
各年代に適したトレーニングはどういったものなのでしょうか?

柴田:
幼年期からいきなりレスリングの技を教え込むのではなく、走ったりジャンプしたり、登ったりといった日常ではなかなか体験できないようなカラダを動かす楽しさを感じられる動きを体験させてあげるといいと思います。小学校に入ってからは徐々にレスリングの動きを身につけさせてあげるといいでしょう。それから高学年でだいぶ成長に差が出てくると思いますので、その子の成長速度に合わせたトレーニングや技術指導を取り入れていくといいと思います。ここでポイントは、今できていることよりちょっとだけ難易度の高いことに挑戦させるということです。例えば、ハンドスプリングができる子はバック転にチャレンジさせるだったり、少し上の目標を設定してあげることが、選手の自己肯定感を高める上で効果的ですし、目標に向かって頑張る力が身につきます。

中学期のレスリング離れについて。結局勝てないとおもしろくない?

柴田:
確かに、レスリングは個人競技で勝ち負けが非常にはっきりするスポーツです。なので勝ったら楽しいし負けたらつまらないというのはあると思いますが、それ以外のレスリングの魅力を伝えていくことが指導者にとって非常に重要な観点だと思います。レスリングマットを降りたところで、いかにレスリングをやっていることに意味を感じてもらえるかですね。友達付き合いだったり、いい意味でのライバルの存在だったり。単純な勝ち負けではなく人間関係も含めて成長を感じられるとレスリングを続けるモチベーションになるのではないかと考えています。それから、勝ち負け以外でレスリングの楽しさを感じてもらう方法として、例えば武道にある段位のような自身の成長と向き合える仕組みがあるとわかりやすいですよね。

木村:
マット以外のところでレスリングの価値を感じてもらうのが非常に重要というのは私も非常に同感です。その中で学校体育でヒーローになれることは運動有能感に密接に関わってくると考えています。運動有能感が高い子どもは、その後のスポーツ活動に寄与するといわれていますので、そこを意識して高めてあげるといいと思いますね。実際に私は小学校3年生からレスリングをはじめましたが小学期はメダルを一度もとったことがなかったんです。でも、学校体育で活躍できたことが嬉しくて中学校でもレスリングを続けることにしました(笑)。

半田:
少子化といわれる昨今において、ここ10年間でジュニアレスラーは微増していて、クラブ数も50チームほど増えているんですよね。実は裾野は広がりつつありますが、中学期でガタンと離脱が起こっています。これには構造的な問題もあるのではないでしょうか?

柴田:
構造的な問題でいうと、レスリングは中体連に加盟していないので、例えば中学生の地区大会ってないんですよね。指導者がいないというのもありますが、続けるとなると課外活動ということになり受け皿が非常に少ないというのはいえると思います。地区によってジュニアや高校のクラブ活動に参加することを課外活動として認めている地区とそうでない地区があり、そういった部分は構造的な問題だと思います。

それから、やめる理由についてはこちら側だけで考えるのではなく、しっかりと当事者からヒアリングすることが大事なのではないでしょうか。続けている子、離れてしまった子に対してアンケート調査を実施してデータを集めることではじめてわかってくるのではないでしょうか。そこに対して一つずつ問題を潰していくしかないと思っています。

半田:
 確かに、、憶測で理由を考えるのはよくないですね、、。

現在の取り組みの先に描く未来

冒頭でも記載した通り、お二人ともレスリングの魅力を感じれているからこそ、レスリングを大衆化したいという思いを持っておられます。そのために日夜指導の実践と研究を行われています。現在の取り組みの先にお二人が描く未来についてお聞きしました!

柴田:
レスリングを通じてスポーツに親しみながら、チーム名の由来でもあります心技体知徳という5つの星(FIVE☆STAR)を高めていき、将来的にレスリングに関わる関わらないは別として社会のリーダーとなり得る人材を排出することが目標です。レスリングの指導者や強い選手は『レスリング界』では認められていたりしますが、一歩外に出た社会で活躍している人って残念ながらあまり多くないのが実情だと思います。他のスポーツでいうとサッカーなんかは社会でもリーダーシップをとって活動をしている人が多いと感じます。そういった人材をレスリングを通して排出していくことでレスリングが社会から認められて、「レスリングをやろう、やらせたい」と思う人が増えてくると思うんですよね。

木村:
 将来的にはレスリングの動作を小学校、中学校の体育に取り入れるというのが私の目指すところです。レスリングはバランスや敏捷性といった要素が非常に重要になるスポーツでして、学校体育だと『カラダつくりの運動系』という項目があるんですがその領域に入ってくるのではないかと思います。そういったところにレスリングの何かしらの動作が入っていくことで、レスリングの教育的価値が生まれるのではないかと考えています。それから学校体育にレスリングが入ると自然と親しみが出てきますよね。

・・・・それぞれにもっと深い部分での講義は続くわけですが、文字起こしはこんなところで。

お二人に共通するところは、勝つこと以外にレスリングの価値を見出そうとされていることですね。柴田先生であれば『社会に通用するリーダーを育てる』という観点から。木村先生であれば『学校体育に取り入れて教育的価値を高める』という観点から。

本日の講義をお聞きしていて、目的を『レスリングの大衆化』とした時に、それに向けてお二人とも明確な戦略を持って取り組まれていると感じました。

いつもながら文字起こしには限界があります。。もっと深い部分で語り尽くしていただいていますので、ぜひ本編をお聞きください。レスリングに関わる全ての方に非常に参考になるオーディオになりました!

柴田先生、木村先生、貴重なお話ありがとうございました!!

⬇️音声を聴く(59:57)
https://note.com/mamo_wrestling/n/nc173c4380d3f